【課題曲V】  「あの丘をこえて」・・・・・・ 星谷丈生・作曲 
Trio(D: 4+(8×4)=4+32小節間)
中間部(Trio)だが、最初に4小節間の序奏が付けられている。ホルンのAsのコードはこの部分の主調の和音なのでそう言う意味でのsfzとして印象的に吹いてもらいたい。
93小節目からTrio主部となる。1stクラリネットと1stアルト・サックスの旋律は少々手のこんだ音型である。

途中のタイでややこしいシンコペーションを形成している旋律だが、整理すると下譜例の様な骨格になる。

というように前半のマーチと異なり半音階を多用した穏やかな流れの音楽を指向しています。
調性も前半の変ロ長調や変ホ長調からさらにフラットの性格が増し柔らかな響きの変イ長調となっています。
まさに中間ぶでその両端と対照的な雰囲気を作っているわけです。

8小節間の前後半を見比べると伴奏の音型が最後の部分で少々異なっています。調性も変ホ調の7度の響きで展開されます。(属7の調) 次の8小節(117小節目)では第1マーチの旋律の動機を使った経過部分です。和声進行は前半8小節同様変イ調から変ホ調への進行です。
(E: 8×2=16小節間)
ここではTrioの主題のシンコペーションを展開させた推移部となっています。全体はmpからmf の流れですが和声は目まぐるしく変化します。ここまでどちらかというと平易な和声でしたが7度や9度の和声も頻出、音型も前半のリズミカルなものから後半の4小節ではレガート進行を見せます。徐々に流れが膨らんで行き、第1マーチの変奏が現れます。次のリズム音型のテンポをしっかり確認させる意味でもFの2小節前からのスネアドラムの音型は重要です。
(F: 8×2=16小節
第1マーチの旋律による変奏です。調性は原調の変ロ長調に戻っています。ここではアルト・クラリネット、テナー・サックス、ユーフォニアムに目新しい対旋律が登場します。スネアドラムも細かいリズムで華々しさを強調しています。調性感は前後半で変ロ調→ヘ調の古典的パターンです。
(G: 8×2=16小節
Trioの再現です。但し、調性は変ロ長調(当初は変イ長調)。Trioの当初に比べ低音クラリネット群も省かれサックス群のみで展開され、極めて編成を絞り込んだオーケストレーションで再登場です。8小節目の1stアルト・サックスの1拍目の実音Fisの倚音に注意します。
後半の8小節(165小節目)から他の木管が順次加わり音楽は厚さを増しつつ、ヘ調から唐突にニ長調の(H)に進みます。
(H: 8+6=14小節間
Trio(E)の再現です。調性は前回と異なっています。後半の6小節で厚さを増しつつクレッシェンドする中、サックス→ホルン→トランペットで順次奏されるファンファーレ的動機(183小節目から)は、終結部で重要な役割を持つものの複線です。ところでここでは8小節のフレーズ割りの後が6小節になっています。(131〜186小節目まで)ちょっとひとひねりでしょうか?
(I 〜K: ({8+8}+{8+8}) ) 
いよいよ原調の変ロ長調で第1マーチが再現されます。対旋律の若干の対位法的な処理、ファンファーレ動機の絡み等々ここにきて第1主題が最も華やかに奏でられます。(J)の5小節前に見られるトランペットの動機はすぐに旋律と合流しますが同型の木管と比べアーテュキレーションが全く異なっています。木管のレガート型に明確な輪郭を与える役割でしょう。(J)からの反復提示では対旋律の類が消え、冒頭と同様のシンプルな形に変貌します。211小節目から終結部へファンファーレ動機を伴いながら移行していきます。
コーダ(K〜終: 8+8+3)
木管セクションの細かな音型は第1マーチの動機による変奏音型です。

のように2拍子の中に3拍子のモティーフを突っ込んでいます。(L)の4小節前から属和音(f和音)を挟んで(L)からは主和音(変ロ調)を曲終まで輝かしく鳴らし続けます。また、(K)からの第1マーチの断片動機に加え、(I)前後の金管に現れたファンファーレ動機が主人公となり曲を結びます。

概観
ここまで見たとおり調性関係やスタイル等々極めてオーソドックスなスタイルを意識して書かれているマーチです。打楽器にはティンパニもありません。しかし細かな点を見ていくとそれなりの仕掛けも見え隠れしています。(この辺はじっくり総譜とにらめっこして各々で見つけましょう)いずれにしても流れがスムーズな曲なので、流れを損なわず、かつ適切な色合いを出せる演奏が実現できれば言うこと無しでしょう。そんなに守備良く行くかな?・・・・
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