【課題曲V】  「あの丘をこえて」・・・・・・ 星谷丈生・作曲 
イントロ(8小節間)
華々しい主調(変ロ長調)で開始されるファンファーレです。3小節目の変ニ調を挟み5小節目で属調のヘ調に移行し最後の属7のコードを経て第1マーチが始まります。この辺の調の進行は極めて古典的な終止形による和声進行で進捗しています。【T(1,2)→V(3,4)→X(5〜8)→T(A)】
ところでこのファンファーレには少々やっかいな点が見られます。出だしの動機を演奏しているのがサックス群とホルンである点です。コードが強奏されている中でこの様な中音域の楽器のみで登場するのでバランスに要注意だと思います。(該当者はそれなりに強く吹くことが要求されるでしょう)
第1マーチ(A: 8×4=32小節間)
ここは (8小節×2)×2 と言う計32小節の構造になっています。
最初の8小節の和声を見ます。(コードはリズムパートのTrbとTubが担当) 前半の4小節間は主調の変ロ長調で開始、後半の4小節は属調のへ調に移行しています。(この辺も古典的) 旋律に目を向けます。
旋律を前後半の4小節づつ、さらにその中での前後半の2小節づつに分けて見てみます。最初の2小節ではこれからメロディが発展する前のスタンバイのようにためらいがちな出だしです。そして残りの4小節で羽ばたくように広がるメロディです。この様に後半の動機で音型が広がるのは多くの曲で見られるオーソドックスな形です。
前後半の最後の小節ででてくる”倚音”は、そこの非和声音から和声音に解決する強拍に書かれる音です。非和声音だけに強い表情をかける必要があります。倚音は古典派の曲、とりわけモーツァルトの音楽では絶対に見逃せない音です。この辺にも古典的形式を重んじた曲づくりが感じられます。
この旋律群の最後では、17小節目でH音(非和声音)が1つ途中で加えられることにより、倚音Esの性格がより強められています。
ところでここでの調性の進行ですが、前半の8小節は主調の変ロ長調、後半は属調のヘ長調、さらに最後の4小節間は変ロ長調への終止形をとっています。ちなみに(B)からの第2マーチは下属調の変ホ長調となりますので、最後の主調の変ロ長調は(B)からの変ホ長調の属調でもあります。と言うことは第2マーチへの移行も古典的終止形X→Tの形です。
旋律全体は、後半の8小節が前半よりも音域が上がって展開されています。これは属調のヘ調に移行した為と考えるべきでしょう。属調は次へ展開する調ですのでいわば発展する調です。旋律は後半でより羽ばたき第2マーチに突入しています。
第2マーチ(B: 8×2=16小節間)
下属調の変ホ長調による第2マーチは前半が金管群による力強い動機、後半は木管による推移部となっています。前半の8小節は前後半の4小節で基本的には繰り返しの物事ですが、後半では下降型の旋律とバックのトランペットに若干の装飾が施されています。ここでのように低音楽器のみで旋律を奏でる場合は明瞭な発音で吹かせないとダンゴ状態になってしまいがちです。後半の8小節では木管楽器による間奏ですが、ここでの音型は第1マーチの旋律の中の装飾的な16分音符を変奏しているかのようです。
第1マーチの再現(C: 8×4=32小節)
第1マーチが再現されるのですが、主調には戻らず変ホ長調(下属調)のままです。主調の5度下の下属調の性格からして、ここではピッコロとホルンのオブリガートを伴い若干優雅と言うか可愛らしい雰囲気を持って提示されます。また、8小節間通して変ホ長調のままです。次の8小節のフレーズ(65小節目から)では属調(全体の主調)の変ロ長調に移行します。後半にウェイトが置かれるのは前述通りですので当然の如く後半(69小節目から)では金管群が加わり厚さを加えられます。
次の8小節間(73小節目から)も最初(C)との対の如く変ホ長調のまま。ピッコロとホルンのオブリガートはさらに優雅さを増し音型が細かくなっています。
(D)に入る直前、調性はEsからEs7thに変移し(D)からの変イ長調への準備にかかります。Es調はAs調の5度下ですのでここでも下属調への転調が見られます。
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